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1-11 嫌がらせ

last update Last Updated: 2025-03-01 08:45:19

 この日――

 朱莉は朝目覚めた時からウキウキしていた。何故なら今日は翔と2人で一緒に食事に出かけることになっていたからだ。

(きっと鳴海先輩の事だから一流のレストランで食事をしに行くに決まっているだろうな……)

となると……。

朱莉は広々としたクローゼットを開けた。しかし、そこには数着のスーツと随分以前に購入したワンピース2着のみだった。とても翔と2人で出掛けて食事に行けるような服装ではない。

 朱莉はまだ自分たちが裕福だった時代を思い出してみた。朱莉の父は中々のグルメ通で、特にフランス料理には目が無かった。毎週末には必ずと言っていいほど、父と母の親子3人で様々な一流どころのフランス料理店に足を運んでいた。その時に母が着用していた服……。少しだけウェスト周りがゆったりとしたエレガントな色合いの、少し濃い膝下丈のワンピース。あまりヒールのないパンプスを掃いていたことを思い出した。

(お母さん……確かネックレスとイヤリングもしていたよね? 鳴海先輩に恥をかかせない為にも思いきって買い物してこようかな……?)

朱莉は初めてブラックカードを手に取った。

(緊張する……。こんなすごいカードを持って買い物に行くなんて……)

 一番自分が持っている服の中でまともな外出着に着替えた朱莉は自分のショルダーバッグを手に取った時に気が付いた。

(そうだ! バッグも靴も必要だよね? ……でもそんなに買って鳴海先輩にお金遣いの荒い女だと思われたりしないかな……?)

だが――

 どうせ翔にはお金目当てで契約結婚にサインをした女だと思われてるに違いないので今更取り繕っても無意味だろう。そう思った朱莉はショルダーバックにブラックカードが入った財布を入れて、部屋を後にした――

****

 朱莉が今住んでいる六本木の億ションは高層ビル街に囲まれている。周辺にはデパートもあるので、朱莉は一番手近なデパートの中へと入って行った。

久しぶりにデパートへとやって来た朱莉はそのきらびやかな連なる店を見て感動していた。……そしてまだ自分がお嬢様として優雅に暮らしていた時代を少しだけ思い出す。

(そういえば、中学生の時まではよくお母さんとデパートに買い物に来ていたっけ……)

早く母に元気になってもらいたい。そうしたら母とまた二人でデパートで買い物をして、何か素敵な洋服を買ってあげて母の喜ぶ顔が見てみたい……。

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